下野を暗示させる、自民党とイギリス保守党との6つの類似点

総選挙の投開票日まで残り1ヶ月を切った。
各地では、暑い中さかんに(事実上の)選挙戦が繰り広げられているが、どうも自民党の分が悪いようだ。*1
いや、分が悪いどころではない。下野確実、敗走状態と言っても過言ではないだろう。


政権交代前夜の様相を呈している現在の日本の政治状況を見ていると、ある記憶と非常にダブっていることに気付かされる。
それは1997年のイギリスでの政権交代劇だ。
若きトニー・ブレア率いる"New Labour"と称する労働党が、実に18年ぶりに保守党から政権を奪取したニュースは、日本でも大きな話題となった(ちなみに、当時の菅直人民主党代表は「日本のブレアに俺はなる!」的な発言をしていた。ちょっと痛い)。


当時のイギリス保守党と現在の自民党の類似点を挙げることで、今後の自民党の運命を探る手がかりとしたい。


1. 遅れた解散時期(限りなく任期満了)

「選挙に勝つため」に福田康夫あなたとは違うんです総理からバトンを受けた麻生総理は、何度か解散のタイミングがあったもののズルズルと引き延ばした。最終的には、任期満了の2009年9月11日に限りなく近い8月30日が投票日に設定された。理由はいくつか考えられるが、低支持率に悩まされた麻生内閣において、菅選対副委員長を中心とする側近グループが「経済政策の効果が出れば、株価も上がり、支持率も向上する」と進言していたことを麻生総理が真に受けたためだと思われる。
一方、イギリス下院の任期は5年(日本は4年)だが、不人気だった保守党政権のメージャー首相(当時、以下同)は、やはり支持率向上を見込んでズルズルと解散時期を引き延ばし、支持率が回復しないまま、1997年3月17日に、これまた限りなく任期満了に近い日程で解散を宣言した。
言うまでもないことだが、解散権を持つ政権与党側は、「好きなタイミングでケンカを仕掛けられる」わけで、もっとも条件がいい(勝率が高いと思われる)タイミングで解散するため、野党に対して大きな優位性を持っている。ところが、任期満了に近づくにつれて選択肢が狭まり、政権与党のアドバンテージが活かせなくなってしまう。死亡フラグとしては、かなり致命的だろう。

2. 解散から投票日までの異例な期間

今回、7月21日に解散した麻生総理は、投票日を8月30日に設定した。解散から投票日までの期間が憲法の規定いっぱいの40日間となるのは、戦後初である。*2
一方、1997年3月17日に解散したメージャー首相は、5月1日が投票日になると宣言。これも、近年のイギリス政治においては最長級の選挙期間だった。
いずれも、解散から投票日までに「風が変わる」ことを期待しての苦し紛れの方策だったのではないかと推察される。

3. 与党サイドによるネガティブキャンペーン

民主党の政策やマニフェストに対する風当たりが、史上最強に強くなっている。特によく使われるフレーズは「財源」と「現実性(あるいは実現可能性)」だ。
メディアが次期政権を担う可能性が現時点で最も高い民主党を批判的にウォッチするのは理解できるが、本来なら政権与党としての「実績」を問うのが王道であるはずの自民党まで同じようなことを連日繰り返している。当の民主党からは「まるで野党みたいだ」と揶揄されているが*3、極め付けは自民党YouTubeニコニコ動画にアップしている【自民党ネットCM】プロポーズ篇だろう。
実は、保守党もかなり激しいネガティブキャンペーンを展開していた。

一番有名だったのがこのポスターで、労働党のキャッチコピー「New Labour, New Britain(新しい労働党、新しいイギリス)」をもじって「New Labour, New Danger(新しい労働党、新たな危険)」としたもの。
イギリスでは、かつての社会主義政党・労働階級政党としての労働党を警戒する中産階級層が少なくなく、保守党はそういった層へのアピールを図った。特に労働党政権は「大きな政府」を志向するために増税が不可避であるとの認識が根強かったため、保守党は自らの「責任(responsibility)」と合わせて有権者に訴えるという戦略に出た(もっとも、イギリスは伝統的にネガティブキャンペーンが好きな国で、労働党サイドもかなり露骨な広告を打っていた)。
いずれにせよ、こういった選挙戦術がどれぐらい新規有権者を呼び込めるかという点に関しては疑問で、むしろ良識的な人間は離れてしまうのではないか。「あんたが言うなよ」とあきれる人が多いと思うんですけどね。

4. 閣僚のスキャンダルと「ぶれ」

安部、福田、麻生と三代続いた「ポスト小泉政権」は、どれも閣僚のスキャンダルが異常に多く、麻生政権下では鴻池官房副長官@愛人と中川財務相@酔っぱらい会見が秀逸であった。さらにインパクトが大きかったのは「かんぽの宿」をめぐる鳩山総務相の辞任で、いずれも支持率の低下に大きく貢献したことは疑う余地がない。
もう一つ、麻生内閣でマイナス効果が大きかったのは、定額給付金郵政民営化に関する麻生総理をはじめとする閣僚の発言の「ぶれ」だった。
メージャー内閣も同じような悩みを抱えており、総選挙前年の1996年には金銭スキャンダル、女性スキャンダル、閣内不一致の三点盛りで閣僚3名が相次いで辞任している(メージャー内閣通算では15名が辞任)。当時のイギリスでは欧州統一貨幣や拡大EUの問題が政治課題となっており、与党内、内閣での足並みの乱れが有権者の不信を招いた。1996年に辞任した3名のうち、一人はデビット・ヒースコートエイモリー財務相は、政府の統一貨幣政策に不満を持って辞任している。
財務相は言うまでもなく最重要閣僚の一人であり、日本においてもイギリスにおいても、内閣の屋台骨を揺るがす出来事であったのは間違いない。

5. 戦略投票(Tactical Voting)もしくは野党間選挙協力

今回、日本では野党間の選挙協力がかなりスムーズに進んでいる。選挙協力とは違うが、共産党の全選挙区擁立方針の見直しも大きい。
民主・社民・国民新党新党日本新党大地の間に選挙協力が成立している上、一部非自公系無所属の選挙区にも野党候補を立てていない(平沼、渡辺喜美ら)。このあたりは、徹底したプラグマティストである民主党の選挙責任者・小沢一郎の働きによるところが大きいだろう。とにかく主義主張・原理原則は無視して、1議席でも多く自民党からむしり取るという戦略で、ここまで徹底できればたいしたものだと思う(笑)
一方のイギリスは、保守党・労働党の二大政党制だと思われがちだが、第三党の自由民主党Liberal Democrats、通称LibDem)の影響が無視できない。大体、総得票数の4分の1近くを獲得する。1997年のイギリス総選挙では、選挙協力こそ行われなかったものの、「保守党には当選してほしくない」野党支持者が、選挙区ごとにもっとも当選確率の高い野党候補(労働党自由民主党)に戦略的に投票するケースが目立った。この結果、自由民主党は二大政党に埋没することなく、過去最高の46議席を獲得している。
日本における最近の総選挙では、与党の統一候補に対して、民主党社民党共産党自由党などの野党候補が乱立するパターンが多く、野党票が分散してしまっていた。トータルでは野党票が与党票を上回っていたにもかかわらず、与党候補が当選した選挙区も多かった。
逃げ腰の公明党がどの程度本気で支援してくれるか不安な自民党にとって、大きなマイナス材料だろう。

6. 政権交代に対する期待感

最後は世の中の空気みたいなものだが、これはある意味どうしようもない。
日本でも、最近の流れは「政権交代」だし、オバマ大統領の「CHANGE」が流行ったという背景もある。大半の日本国民は、未だかつて選挙による政権交代を経験したことなどなく、ある種のイベントとして変化を求めているのは間違いないだろう。そういった「軽いノリ」が正しいのかどうかは別として。
日本ほどではないにせよ、1997年当時のイギリスも、サッチャー、メージャーと18年間続いた保守党政権は飽きられており、「New Labour, New Britain」「Time for change(変革の時がきた)」と声高に叫んだブレアの労働党は、まさに時流に乗っていた。
対策の施しようがないという意味では気の毒だと思いつつ、麻生自民党が、そうした現実から目を背け続けてきたことも事実だ。自業自得だろう。



まぁ、鳩山由紀夫はブレアではないし、民主党労働党ではないのだが、追い詰められた政権与党の状況があまりにもダブって見えたので類似点をリストアップしてみた。

本当は1997年の政権交代後の保守党の惨状をもとに自民党に起こりうる今後のシナリオを考えるつもりだったが、夜が明けてしまったので続きは明日以降に書きます。ヽ(´ー`)ノ

*1:asahi.com朝日新聞社):民主、比例投票先で優勢保つ 朝日新聞世論調査 http://www.asahi.com/politics/update/0802/TKY200908020171.html

*2:衆院選:現憲法下で最長「40日間」…解散から投票日まで - 毎日jp(毎日新聞)http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090722k0000m010137000c.html

*3:「自民、もう立派な野党」民主・岡田氏が皮肉 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090719-OYT1T00747.htm